昨晩、寝る前に読んだ本

浅田次郎の『ふくちゃんのジャック・ナイフ』を読んだ。


 集団就職の時代の頃、地方からの若者を受け入れる会社を経営する裕福な家で生まれ育った少年の視点で、
住み込みの青年ふくちゃんとの交流と、ふくちゃんの生き方が描かれている。
また、社長んとこのぼっちゃんである少年が、一匹狼的なふくちゃんと行動を共にする中で、
男っぽさとか生きる上で負う傷とかに触れ、大人の世界に踏み入れる話でもある。


 話はふくちゃんがブラジルに移住する夢=誰にも知らせていない秘密を二人が共有するところから始まる。
そしてブラジル移住に向けての時間を縦軸に、そこに関わる人たちのやりとりを横軸に話が展開する。


 ところで、この小説は寝る前に歯を磨いてベッドに入るまでの時間で充分読める長さだ。
しかも一文一文が短めで、すっきりとした文体であり、登場人物それぞれの表情、心の揺れがくっきりと、しかも細やかに浮かびあがる。
読み始めると、自然にスーっと引き込まれる。


 が、が、が 
その滑らかさは曲者である。


 話に引き込まれるのは、ただ文体の読みやすさからだけではない。
最初からどこか物悲しさが漂っていて、
「あぁこれはカラリとした結末ではないのだろう」と予想される。
一体、どうなるのか?
知りたくないような、でも近づかないではいられない、
そんな気持が読むスピードをより加速させるからだ。


途中
「あぁ、やっぱりそうなってしまうのか」
と、思わず残念な声を出してしまうところがある。

しかし、お話はそのようには運ばない。
「あっ!」っという感じで終わる。
つまり劇的といえば劇的なかんじで、読み手としては一瞬ほっとする。
しかし、あとから「私はほっとしていいんかいな?」
と、もやもやが湧き上がってくる。


という次第でこの短編は寝る前に読むと、
さくさく読めるのにえらく気持が揺れ動いてしまって
落ち着いて眠りに入れなくなります!
要注意です。

はじめての文学 浅田次郎

はじめての文学 浅田次郎